千歳黄昏時のブルース秋の陽はつるべ落としとはよく言ったもので、9月も半ばに差し掛かると、18時を過ぎた辺りからあっという間に辺りが暗くなる。 秋雨降りしきる夕暮れどきのことだった。車を走らせ帰路に向かう途中、人気の少ない住宅街の角を曲がろうとハンドルと切ったとき、唐突に、目の前に黒い影がぬっと...
千歳たぶん、おそらく、きっと金色の 帯射す真昼の 木下闇 それは8月も半ばに差し掛かった頃だった。 “こうえん” 昼過ぎ、たった四文字の電話を受け取った。千歳だ。受話器の向こうで彼の声が、気だるげに、けれど口調はどこかはっきりと、そう告げた。どうやら公園に来いということらしい。彼のこうした突拍子もない...
千歳君に包まれて「ただいま」 ほぼ無意識に発したその言葉に「おかえり」と返してくれる人がほとんどこの家にいないというのはいつものことだった。しかし、ハイヒールのストラップに指をかけたところで、私は異変に気付く。「ただいま」という言葉は、いつものように真っ暗な室内に静かに吸い込まれていったが...
千歳辿り着く場所一人旅をした。急に、どこか自分の知らないところに行ってみたくなり、丁度貯金も良い額に達していたので、衝動に任せるままに有給を取って文字通りふらっと一人旅に出掛けた。行先はどこでも良かった。有給の手続きをしたその日の帰宅途中に立ち寄った本屋でたまたま一番最初に手に取ったガイド...
千歳冬の陽射し北風が容赦なく吹き付ける寒空の下、わたしは彼のいる街の駅に降り立つ。街が年末年始の催し事でばたばたと慌ただしい最中、わたしは一心に彼の家へと向かう。箱の中のケーキが崩れてしまわぬよう、細心の注意を払いながら、わたしは彼の住むアパートの階段をそろりそろりと昇る。...
千歳名もなき恋テストの成績も、両親からの期待も、将来のことも、全てを急に投げ出したくなって、帰りの電車を途中下車した。特に理由もなく選んだそこは、毎日利用している路線だというのにも関わらず、名前すら知らない田舎の駅だった。知らない駅に降り立ち、知らない名前の書かれた看板を茫然と眺める私の...
千歳カノンを刻む東京という街は、そこだけ時間の流れが速くなってしまった様なところだと聞いたことがある。東京の時計の秒針はぐるぐると滑る様に滑らかに回転するだけで、カチコチと独特のリズムを刻まない、そんな気がするのだ、と。 閉まるドアを背にホームに降り立つと「東京」と書かれた看板が私を異国の...