仁王メロウステップ「私たち、入籍しました」 飲み会も終盤に差し掛かった頃、二つの顔が、会場の真ん中で喜びを弾けさせていた。十数名による一斉の拍手が二人を祝福した。 「おめでとう」 「いいなあ」 「まさかお前が結婚するとはなぁ」 「いつ入籍したの?」 「式は?」...
仁王月曜日の怪物「月曜日は人を殺したくなる」と人は言った。駅のホームで、雑踏の中の一人ひとりをうつろな目で流し見していると、そんな鈍い殺気が胸を支配する。 「月曜日は自分を殺めたくなる」と人は言った。黄色い線の内側できっちりと揃えられた自分のローファーのつま先を見ていると、そんな憂鬱に飲ま...
仁王あかいあたたかいぶうん、というその音が、天井にぶら下がった蛍光灯のものなのか、それともあの忌々しい夏の羽虫のものなのか、聞き分ける暇もなく仁王の首筋に一匹の蚊が留まった。生きている人間のものとは思えないような生白い肌の上で、それは黒子のように“ぽつ”と黒かった。私はそれをじっと見つめる。蚊...
仁王しゃぼん玉とんだ授業をサボタージュして屋上に足を運んだ。携帯電話を教室に忘れてしまったので、代わりに暇潰しになるようなものはないものかとブレザーのポケットの中をまさぐると、シャボン玉のセットが出てきた。そういえば、よく分からないけれどいつも持ち歩いていたことに気付く。目の冴えるような蛍光ピ...