柳紅牡丹姉さんの振袖の前撮りをするついでに買い物に行く。色々と荷物が増えるだろうからお前にも手伝って欲しいと頼まれ、父親の運転する車に乗り込んだ。家族揃って何処かへ出かけるのは久々のことだった。先に買い物を終えたのち、俺はスタジオの隅に置かれた椅子に腰掛けて撮影の様子をぼんやりと眺...
柳抉る嫉妬なんてするだけ無駄じゃない 彼女は唐突にそう言い放った。 まるで自分に言い聞かすかのように。彼女の視線の先、裏庭のベンチの上では、見慣れた銀髪がこっくりこっくりとうたたねをしている。彼女と俺は今、3階にある図書館で委員会の仕事をしながら、ちょうどすぐ下にある裏庭で秋風に...
柳朽ちて尚「ソメイヨシノの実は食用ではない」 そう言って彼は足元の残骸を踏み潰した。 校庭の隅を埋める桜の木は、二ヶ月ほど前に薄桃の花を咲かせたばかりだった。花弁を追いかける子供の横を私と彼が手を繋いで通り過ぎたのは、まだ記憶に新しい。誰もが足を止め、頭上のそれを見上げたものだった。...
柳全部、知ってる静寂の中に一つの溜息が落とされた。 「何度目だ?」 「分かんない」 二度目の溜息がこぼれそうになるのを押しとどめながら「だから言っただろう、ろくな男ではないと」と呟く彼に、私はこくりと頷くしか術を知らなかった。 もう何度目になるか分からない。顔が多少良いくらいしか取り柄のな...